志が人をつくる。~長崎県 雲仙市 鶴田歯科医院長のエピソードより。~
今回は「志」について考えてみます。
それにあたり、私の師匠である鴨さんがセミナー中に紹介されていた
とある歯科医院の先生が書かれた本をご紹介させて頂きます。
私はこの本に書かれている内容に、非常に感銘を受けました。
長文になっておりますが、どうぞ最後までお付き合い頂けますと幸いです。
きっと、皆さんにとっても ハッとなるような気付きが満載かと思っています。
鴨さんがご紹介されていた医院とは、長崎県 雲仙市の 鶴田歯科医院 です。
雲仙市は過疎地域なのですが、こちらの医院の駐車場は常に満車、
そして従業員の方が30名以上勤務されているという、
業界の中でも異常な歯科医院なんだそうです。
そして、こちらの医院では患者さんへの思いやりに溢れている事でも有名なんですね。
この「思いやり」には、医院長である鶴田さんの志が大きく反映されていると言います。
その志とは、一体どのようなものなのでしょうか。
以下、鶴田先生の執筆された文章にその想いが込められています。
***
開業して、医院長としての本当の仕事とはなんでしょうか。
それは、「潰さないこと」です。
「潰れる」とは、「倒産すること」です。
本当です。嘘ではありません。本当に潰れるのです。
今、あなたの医院に訪れている患者さん一人一人の顔を思い浮かべて下さい。
もしあなたの歯科医院が倒産したら、どうなりますか?
困るのは患者さんです。「歯科難民」となってしまうのです。
治療の途中で放り出されて、その患者さんはどこに行けばいいのでしょうか?
その心の中は不安と、歯科医院への不信感は生涯消える事は無いでしょう。
だからこそ、潰れる事だけはしてはいけません。
他にも、歯科医院が潰れると困る人はたくさんいます。
両親、配偶者、子ども、従業員、取引業者、お金を借りた銀行、
テナントの持ち主、地主、歯科ディーラー、歯科技工所など、他にもたくさんの影響を及ぼします。
「自分の同僚・先輩が開業して上手くいっているから自分も大丈夫だろう」と思うかもしれませんが、
それは違います。
歯科の医療技術を身に付けたから絶対大丈夫だろう、というのは、幻想です。
一昔前の話であり、今は違います。
例えば、チェアを3台で新規開業するとすると、
基本セット、ミラー、ピンセットなど、諸々の小道具だけで400万、
チェアを2台増やそうと思ったら、設計基板から見直すとすると1,500~3,000万円はかかります。
それに加え、従業員の給料などを含めたうんざりする程の固定費を、
毎月決まった日に行わないといけません。
それは、表には出ていない数字ばかり。
しかし、これらは1日たりとも遅れる事は許されません。
あなたはこの事実を知っていましたか?
医院長の仕事は、診療ではないのです。
私の場合、診療に割くエネルギーの割合は、医院全体を運営していくエネルギーの割合の30%に過ぎません。
後の70%は診療以外のことばかりなのです。
大きな声では言えませんが、面倒臭いと思える事が山のようにあります。
あなたも歯科医師になったのだから、「いずれは開業」と思っているかもしれません。
しかし、開業するということは「一世一代の大博打」と言っても過言ではないかもしれません。
大学の先輩が「いいか。結婚は何度でも出来るけど、開業は一度しか出来ないし
失敗も出来ないから覚えておきなさい。」とアドバイスしてくれた事を思い出します。
全て自分でプランニングし、自分の責任で行っていくのです。
誰も助けてはくれません。
開業とは「無」から「有」を生み出す事ですから、壮大なエネルギーが必要になります。
それはきっとあなたの想像を絶する程大変な事なのです。
決して脅かしているわけではありません。本当なのです。
私は、自分の尊敬する先輩が7年目に開業し、順調に軌道に乗った事を知っていたので、
研修医の時から「自分は7年目に開業する」と決めていました。
その為にはどんなスキルが必要なのかを勉強し、手当たり次第に情報を集め、実践してきました。
開業する7年前から全て逆算して、学んできた。
足りないと思えるスキルを1年目からずっと計画的にやってきました。
そして、もう一つ。
私の親しい友人や家族には何度も「あと〇年で開業する」と夢を語っていました。
ですから準備だけは、圧倒的に「これでもか」という程やりました。
「もうこれ以上の準備は出来ない」と思える程やると、不安も緊張も薄らいでいきます。
「ここまでやったのだから、結果は必ずついてくる」という気持ちになるのです。
そして、7年目に開業したわけなのです。
ここまでは上手くいきました。
開業した時は大きな達成感がありました。
開業し、沢山患者さんが来てくれたらそれで成功する、そう信じていました。
しかし、それからが本当の試練のスタートでした。
「開業して良かった事はなんでしょうか?」と、よく聞かれます。
私が開業して一番良かったと思う事は、自分のやりたい勉強が出来るようになることです。
例えば、どこそこでこういった勉強会がある、セミナーがある、といった情報が入ってきて、
「行きたい」と思ったらそれが平日であっても行く事が出来るという幸せです。
私は、開業医になる前は勉強したいと思っても行けなかった。
でも、「開業すれば勉強会に行けるんだ!」そう思うと、セミナー情報を見るだけでわくわくするのです。
私はこう思っていました。
「そうか、開業すると自分の好きな時に勉強が出来るのか、それはいいな!」と思っていた。
でも、私の場合、自由に勉強が出来るようになったのは開業してから10年経ってからでした。
それまでは我慢の連続でした。
行きたいけど勉強しにいけない、そんな我慢が長く続きました。
開業した当初は「忙しくて行けない」。
開業直後はお客さんが沢山来てくれた事もあり、日曜日も営業したり、
抜歯後にも処置を入れたりしていましたから、中途半端に休憩も取れない日が1年以上も続いたのです。
勤務医を採用してからは、土曜日・日曜日などの単発セミナーに参加出来るようになりました。
しかし、土日などの単発セミナーでは、本当に質の高い技術や考え方を学ぶ事は出来ない。
受講料も高額で、受講期間も長い。
そんな高名な先生の授業こそ、私は受けたかったのです。
ちなみに、私が今まで受けてきたセミナーの価格別の価値を皆さんにお伝えしようと思います。
まず、無料~5,000円のセミナー。
メーカーや業者が主催することが多い。単なる商品説明のこともある。
講師は歯科医師ではなく、メーカーの担当者であることもある。
メーカーや販売業者さんの、販売促進の目的であることもある。
かといって、現在のトレンドをキャッチ出来るものである事も多いので見逃すことも出来ないセミナーです。
次に、5,000円~15,000円のセミナー。
歯科医師、歯科衛生士などの有資格者が講師になっている事が多い。
この価格帯で一番多いのが、講演会。50人以上、100人規模のところもある。
15,000円~50,000円のセミナー。
ここから大きく変わる。
20,000円を超えた途端、模型制作など実演を交えたものが多い。
大体このコースはベーシックコースとなっており、
その次のアドバンスコースに進んで初めて習得出来るものが多い。
次に、50,000円~150,000円のセミナー。
大体1泊2日である事が多い。
このコースになってくると、価値が倍増する。
懇親会があり、講師を支持する先生がアシスタントとして参加するからだ。
同じようなレベルの人が集まるので、すぐに意気投合し、親近感が生まれ、
セミナーの後もお互いの職場を見学し合うような仲になる。
得られる価値が倍増するのは、こういう価値である。
150,000円~800,000円のセミナー。
このクラスになると、勤務医で参加している人はかなり少なくなる。高額だからだ。
でも、何とか貯金して参加するようなすごい勤務医もいる。
大体4か月~1年を掛けて行う、習得コースである。
ちなみに私は飛行機に乗って参加するしかない。
それでも全国からすごい歯科医師の先生が集まります。
貴重な学び程ハードルが高くなる。
金額や場所では関係なく、趣味とか好きを越えて、
仕事で真剣勝負をするにはこのクラスを受けるなければならない。
最後に、数百万円のセミナー。
海外で行われるコースだと、数百万円は超えます。
それと、最低1週間は医院を閉めなければいけない。
それだけで医療収入はがた落ちする可能性があるので、準備を含めて相当の覚悟と気合が必要です。
しかし、このレベルのセミナーに参加すると、世界に飛び出しても恥ずかしくない知識が手に入る。
そこでしか手に入らないから、高額なのである。
ぜひ、受けに行くようにしてください。
成功し続ける人が、必ずやっていること。
「それだよ!それが知りたい!」というあなた。
教えてあげます。メモってください。
それは、「早起きと掃除」です。
「はぁ… 早起きと掃除ですか。」と、落胆した人もいるかもしれません。
今からこの事を話しますが、これからは本当のことなので、やってない人はやってみてください。
やらない人には分からない価値があるからです。
あなたは勤務医としてやるべきことをやっていればいい、と考えているかもしれませんが、
そんな事をしていたら医院は潰れます。
医院の経営を脅かさないように資金繰りも大変です。
最初から従業員を思いっ切り増やすことなんて出来ない。
人件費はとても高いわけですからそんなに簡単に増員など中々出来ず、
売り上げと利益を上げる事は出来ない。
しかも、まだ未熟なので勉強する必要が沢山あります。
本を読む、調べ物をする、セミナーに行く、自主トレをする、
カルテを書く、治療計画を立てる、症例をまとめる、日報を書く、MTG内容を考える・・・
やる事はたくさんあるのです。
じゃあ、それらの時間をいつ確保するのか。
それは、早起きしてやることです。
早起きは三文の徳と言いますが、私は早起きは「三億の徳」だと思っています。
それほど早起きは経営者にとっては大切な事です。
早起き=タイムマネジメントになるからです。
早起きするとなると、夜寝る時間もコントロールしなければならない。
そう考えると、早起きは全てのタイムマネジメントに繋がっているからです。
よく「経営に力を入れたいんだけど、時間がなかなかない」という先生がいます。
私がやっている活動を見て「鶴田先生はよくそんな事をする時間があるね」という人もいます。
理由は、人よりも早く起きているからです。
早起きさえ出来れば、何でも出来ます。
私は、朝7時には医局にもういます。
朝早いと渋滞に巻き込まれません。
気持ちよくスイスイと愛車を走らせて医院に出勤する事が出来ます。
その時間、電話もかかってきませんし、誰かに話し掛けられる事もありません。
急患の対応もこの時間はありません。
だから「緊急ではないけれど重要なこと」に時間を割くことが出来るのです。
この「緊急ではないけれど重要なこと」とは、例えばブログを書く、ニュースレターを書く、
求人コンテンツを作る、論文やケースレポートを書く、決算書を読むなど、
これらの緊急ではないけれど長期的に考えたら重要なことに時間を割くことが出来ます。
この本を書いているのも、朝の早起きした時間に書いています。
つまり、この時間に自分にしか出来ない仕事を行う、それが早起きの意味です。
最後に、志についてお伝えします。
究極の事を言うと、知識ばかり増やしても意味はありません。
物事には「本質」と「ノウハウ」の2つがあると思ってください。
知識がノウハウだとしたら、本質は「あなたがどう生きるか」という事です。
それが志です。
志を持っていて、それを常に心に置いておけば、
何をしても、どこに行っても、何を聞いても、その志がぶれない軸となり、
あなたを未来に導く道となります。
あなたはこれから開業し、素晴らしい人にたくさん出会えるでしょう。
輝いている人、素晴らしい人、超越している人、あなたはそれらの人に会った時、どう感じるでしょうか。
私の例を挙げましょう。
私はインプラント治療を20年以上勉強してきました。
これまでありとあらゆる勉強会、セミナーに参加し、知識を得てきました。
何故、たった一つのこの治療に20年以上も頑張り続ける事が出来たのでしょうか。
それは、人です。私には目指す人がいたんです。
それをメンターと呼びます。
つまり、こういう事です。
「こういう人になりたい。こういう人になる為に学ぼう。」そう思う事です。
それは決して、誰かに評価されるためのものではなく、地位を得るためのものではありません。
自分自身が一生かかっても必ず成し遂げてやろうと思えるレベルのものから私の全ては始まりました。
私の場合は偶然の出会い、” 林 楊春 先生のインプラント技術 ” 。
この治療方法に出会った事が人生の転機となりました。
安全で、痛みがなく、短期間でインプラント治療を終わらせるというコンセプトは、当時も今でも斬新です。
何故なら、その技術は金儲けの技術ではなかったからです。
林 楊春 先生はこのように仰っていました。
「2025年には、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者の世代に達する。
このまま今のインプラント治療をやっていたら、後期高齢者は治療を続けられなくなる。
インプラント治療には、治療後にも大変な労力と大変な期間がかかる。
それを後期高齢者の人が通い続け、口の中を毎回のように触られ、耐えうるものではないからです。
だからこれからのインプラント事業は、変わらなければならない。」
それが林 楊春 先生の志です。
林先生の提示される症例は、年々アップデートされており、私を含め林先生の門下生は皆驚愕しています。
なぜなら、林先生自らがもうすぐ後期高齢者になるにも関わらず、若手の我々には到底ついていけない、
そんなレベルに常に自分自身をアップデートし続けている。そんなメンターだからです。
追いつこうと思い、20年以上勉強してきましたが、まるで追いつけないのです。
志のある人と、志のない人の差は、たった一つしかありません。
林先生のように素晴らしい人に出会った時に「自分も同じ歯科医師だ。負けてなるものか!」
と発奮出来るかどうかです。
「あれは林先生だから出来るんだよ。長期的にはどうか分かってないよね。」
でも、だってと、出来ない理由ばかりを言っているようでは、いつまで経っても本物にはなれません。
人は、志をひとたび見つけたら、いてもたってもいられなくなるのです。
心の底から熱くふつふつと湧いてきます。
生涯一度でいいから、素晴らしい歯科医師と出会い、その人のようになるという志が生まれると、
その志に突き動かされて行動するのです。
知識や理論で我が身を飾ったところで、いつか必ずメッキが剥がれてしまいます。
繰り返しますが、本質というのは「どんな人になるのか」ということです。
つまりあなたが「どう生きるのか」ということです。
あなたがぶれなければ、何も恐れる事はないのです。
「あの人だったらこの時、どう行動するだろうか?」
迷った時、そう考える事でその人に近づくことが出来るのです。
一度学ぶと決めたら、最後まで学びきるという覚悟を持ちましょう。
どんな技術・学問を極めるにも、苦難と挫折は付き物です。
反対に、いろんなものに手を付けて、やったりやめたりを繰り返していては、
その間にあなたの時間は過ぎ去っていき、その間に何も成すことが出来なくなってしまいます。
素晴らしいものは、短期間で習得する事は出来ません。
一つの技術について完全に習得するまでは、どこまでやりきっても
7年~10年の期間がかかる事が当たり前だと思って下さい。
決して目先のものを追いかけない事。これが一番重要です。
何のために学ぶのか、自分は何のために生きるのか、
それに早く気付いた人が偉大になれると、私は思います。
***
本文中にも出てきた、鶴田先生の師匠である林先生の凄さとは何でしょうか。
林先生の元で働くスタッフさん曰く
「勉強中は鬼のように怖く、でも患者さんの前では
スタッフが失敗しても笑顔で接する。」という林先生。
鴨さんは、『これこそが、林先生の志だ。』と仰っていました。
” 患者さんへの思いやりを一番に考える。” という志のもとで、
林先生が治療に当たられていることがとてもよく分かりますよね。
業績が伸びない、スタッフの教育が上手くいかない …
そう言った悩みがあるとすれば、志を自分自身が忘れてしまっている可能性が高い、
と、鴨さんは警鐘を鳴らされていました。
【志の上に、知識(ノウハウ)が活きる。】
これを忘れてはいけないと思います。
それでは、今回はこの辺りで失礼致します。
長文にも関わらず、最後までお付き合い頂いた皆様、本当にありがとうございました。